2023年6月2日に公開された映画『怪物』
監督は是枝裕和、脚本は坂元裕二、音楽は坂本龍一。
第76回カンヌ国際映画祭で、脚本賞とクィア・パルム賞を受賞したことでも話題になっていた作品ですね。
WOWOWで鑑賞したのでネタバレありの感想でも。
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ストーリー
大きな湖のある郊外の町。
息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たち。
それは、よくある子供同士のケンカに見えた。
しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。
そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した―。
引用:Amazon Prime Video 怪物 より
感想
事前情報無しに鑑賞していたので「怪物」とは誰なのか?と、キャッチコピー「怪物だーれだ?」にいい意味で惑わされた感じです。
登場人物の視点により変わる物語の見え方の違いに終始振り回されっぱなし。
誤解や何気ない一言が周囲を傷つけ傷つく様子を描いたストーリーは、日々を生きていく中での痛みや葛藤を深く考えさせるものでした。
何より役者さん達の演技が本当にすごかったです。
特に田中裕子さん演じる校長先生は、一見何を考えているのかわからないが、その裏には複雑な感情が隠されているように感じました。
永山瑛太さん演じる保利先生は、徐々に追い詰められていく姿がすごく印象的。
そして、言わずもがな子役二人の演技もすごい自然で、特に星川依里役の柊木陽太さんはもうセリフの絶妙なニュアンスや表情なんかもすごくて、ただただ感心して見ていました。
麦野早織の視点
この映画、大きく3つのパートに分けて一つの出来事が語られていき、まずはシングルマザーの麦野早織の視点から。
息子・湊の様子がどこかおかしく、学校でいじめられているのでは?というところからストーリーが進んでいきます。
紙に書かれたことしか喋らない校長、取り繕うばかりの教頭、ずっと釈然としない態度の保利先生。
この学校側の態度を見ると早織がブチギレするのもうなづける流れになっています。
観客側として一番感情移入できるであろうこのパートの出来事が、ストーリーが進むごとに効果的に自分ごととして効いていました。
保利先生の視点
次のパートは保利先生の視点から。
ここでは不器用ながらも保利が子ども思いで良い教師であったことが明かされます。
生徒の小さな嘘に翻弄され、事態がどんどん悪化していく様子は生きた心地がしないですね。
校長に「お前が学校を守るんだよ」なんて言われ、退職にまで追い込まれる保利先生。
出てくる出来事がすべて早織の視点のときとは真逆に描かれ自分の思い込みの強さを感じます。
湊の視点
最後は湊の視点で語られ、湊と依里の周りで何が起きていたのかが明かされるわけですが切ないですね。
「普通の人生を送ってほしい」と言う母親の言葉と自分の現状とのギャップに苦しめられる湊と、女の子っぽいからといじめる同級生や虐待をする父親に苦しめられる依里。そんな二人が密かに心を通わせていく場面はどれも美しく、とても繊細で儚く描かれています。
結末
地鳴りが響く中「出発の合図かな?」なんて話しているうちに暗転。
その後、電車からなんとか脱出した二人が明るい世界を楽しげに走り回るシーンが描かれ終わり。
初見では二人が亡くなってしまったラストだと思って見ていましたが、監督が自ら二人は生きいてるとインタビューで明言されていますね。
確かに電車から出てきた後のセリフで「生まれ変わったのかな?」「そんなのはないんじゃないかな」と喋っているし、あのまま亡くなってしまうラストでは、二人にあまりにも救いがなさすぎますしね。
ラストのカットでは、線路を塞いでいた金網もどこかへ消えており、二人の未来がどこまでも広がっていることを示唆しているように感じました。
最後に
映画『怪物』は、「怪物だーれだ?」という問いを通じて、無意識に他人への思い込みや先入観に囚われ、誰かを追い詰めてしまう人々の姿を描いた作品です。
登場人物たちの視点が交錯することで、見ているこちらも何度も考えさせられ、深い感動を覚えました。
この映画は、人々の心の奥底に潜む闇と、その中で生きる光を見出そうとする姿を見事に描き出しています。
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